冬来たりなば春とうがらし

これまでに経験した困ったことと、その解決法らしきもののまとめ。あと読んだ本。

ラボ作りなば

 前回のブログを書いたのが2019年9月ですので、おおよそ1年半ぶりの記事となります。この間に世の中は恐ろしいくらいに変化し、その変化がこれからどのような方向に向かうのか見当もつかない状況ですが、社会状況とはあんまり関係ない理由で私個人の環境も大きく変わることになりました。
 昨年の中頃まで、研究所に勤務していたのですが国立大学に異動して自分の研究室を持つことになりました。立場が大きく変わることになる上、研究所→大学の異動ですので、仕事の内容も大きく変わることになりました。以前は基本ひたすら自分の研究を進めることに注力していたのですが、今は学生さんの教育を第一に務めた上で、研究(研究も教育の一環としての側面もありますが)を学生さんが主役となって進めていくことになります。また大学の運営に関わる仕事も少しずつ務めることとなりました(なりそうです)。

 さて今回の記事では、研究室づくりについて少し書こうと思います。まあ実験系の生物学のラボを作る感じの話です。

 

1 まずはキホン
 現職に採用が決まった時点で、数年前に定年退職された先生が使われていた跡地に入居(?)することを教えていただきました。たまに聞く話では、前任者がナゾの試薬類などを放置したまま退職or異動し、後任者が処分にスーパー困るということがあるのですが、私の場合は試薬類はすべて撤去されており、いくつかの物品類を撤去するだけで済みました。研究所や予算が潤沢な(ごく少数の)大学ですと、新任の人が来る場合、希望に応じて研究室の改装やベンチの新規設置を(機関の予算で)してくれたりするのですが、私の場合はそういうことはなく、ベンチや流しなどは前任の先生の使われてたものをそのまま受け継ぐ感じでした。「受け継ぐ」感じで研究室を作る場合、電源の数と容量(100V/200V, アンペア数など)が大事になるのですが、前任の先生がたくさん電源を設置しておりましたので、大学から措置していただいた予算で、100V/30Aの電源を1つ、200V/30Aの電源を1つに加えて、クリーンベンチ・安全キャビネット用のガス口を2箇所新規設置するだけで済みました。あとは、私には不要な流しが2箇所あり、スペースを圧迫していたので、それらを撤去しました。

 

2 前職からの物品移設
 私は前職でそこそこ多めの機器類を持っておりまして、それらをすべて現職に移設することにしました。研究所→大学の異動の場合、往々にして大学のスペースが限られているためにすべての機器類が物理的に移設できないなどの悲劇が起こったりしますが、私の場合はそういうことはなく、すべての機器類を移設できるスペースを確保できました。パソコン上で機器類の設置場所などをあれこれ算段するのはパズル的な要素もあり楽しかったですね。機器類が多いのは研究室立ち上げの面では極めて有利なのですが、移設費用はどうしても高額になります。私の場合、機器類移設とメーカーによる遠心機などの動作確認などを含めると、ミニバンが買えるくらいの金額になりました。本州内の移設でこれでしたので、遠距離になるともっとかかるかと思います。いくつかの計測機器は、メーカー保証が受けられないかたちで、普通の機器類と同じレベルの扱いで輸送することを余儀なくされました(予算の都合)。結果的に輸送中に壊れたりはしなかったのでよかったです。こういうことを考えると、たとえば今非独立ポストで将来的な独立を考えている人の場合、獲得予算を使って比較的小型の研究機器(サーマルサイクラーやDNA定量用の分光器など)をコツコツ買いためておくと、「いざ鎌倉」のときにスムーズかもしれません。大型のシェーカーや除振台の移設費用はけっこう(かなり)します。
 備品の移設に際しては、大学(とくに私立の場合)から異動先への移設をなんとかして止めようとする動きがあったりしますが、私の場合は前職が研究所で、研究所としてはスペースを空にして出ていってほしいという意向(フインキ)があり、手続自体は非常にスムーズでした。ただ一生懸命備品リストを作って、煩雑な手続きを進めて現職に移設した挙句、現職では減価償却などを考慮するとほとんどの機器が備品扱いではなくなったため、ほとんどの書類仕事が結果的に意味なしだったのは脱力感ありました。
 あと、物品移設については一般に、前職の予算を使うことはできず(前職のために行う作業じゃないので当然といえば当然ですが)、科研費で移設費用を出すのも極めて困難ですので、移設費用をどういうかたちでどこから支出するのかというのは様々なスキルが試されるところではあります。

 

3 新規の物品購入
 上述したように、前職で使っていた機器類は基本的にすべて移設できましたので、どうしてもこれがないと研究できない、というレベルの必要不可欠な機器はありませんでした。ですが、超純水装置については、毎回学生実習室に水を取りに行くのは面倒でしたので、新規購入することにしました。私の場合、それほどたくさんの水を使うわけではありませんので、小型の装置を購入することでコスト削減を図りました。小型にしておくと、定期的なメンテナンスに必要な消耗品類の費用も抑えられるという効果もあったりします。あとは小型の遠心機を一台購入しました。研究所ですと基本「プロ」が仕事をするので機器類のトラブルというのはあんまりないのですが、大学だとどうしてもアマチュアというか初心者が実験することも多いですので、同スペックの遠心機をできるだけ2系統確保するというポリシーで、予算を勘案しながら、遠心機一台新規購入しました。やっぱり新しい機器というのはいいものです。

 機器購入の予算が十分確保できない場合は、学生実習室の機器や周りのラボにある機器、死蔵機器類などを事前に確認し、それらの管理者の人とうまく話をつけて使わせてもらえるようにするのが一番いいと思います。もちろん逆の立場になったときは、積極的に協力するべきでしょう。

 

4 暗室の設置
 私の研究内容上、研究室に暗室がどうしても必要なのですが、現職ではありがたいことに研究室にもとから一つ暗室が設置されていました。私一人で研究する場合はこれでよかったのですが、将来的にラボメンバーが増える可能性を考えてもう一つ暗室を設置することにしました。研究室内に小部屋みたいなものを作りますので、消防法などのルールを遵守し、学内の手続きなどを経て、設置場所をいったん空けて、業者さんに工事してもらうことになります。立派な部屋を作ると費用も相応ですので、契約手続きなどに時間がかかったりします。もちろん手続きや工事を進める前に、部屋の設置場所やサイズを考えておく必要もあります。暗室に限らず小部屋を作る場合は、火災報知器・換気・エアコン・部屋の明かりなどをちゃんと考える必要があり、その手の工事に慣れた業者さんと話を進めるほうがいいと思います。こういう工事の場合、あんまり予算をケチろうとせず、必要なところに十分予算をかけたほうが長い目で見るといいんじゃないかな、と思ったりします。

 

 現場からは以上です。